1年間同じ場所に通い続けると何種類のきのこに出会えるか?【神奈川県横浜市の一例】

この記事は新治キノコグループの中島淳志様に寄稿頂いたものです。
また写真はにゃごにゃ様に提供いただきました。

 

はじめまして!神奈川県横浜市で活動している新治キノコグループと申します。

今回、ご縁があって関東きのこの会さんのブログに寄稿させていただくことになりました。

私たちは1ヶ月に1回、横浜市北西部の市街地にありながら、豊かな里山の原風景が残されている「新治市民の森」できのこを観察し、出会ったきのこの一覧をまとめています。

きのこの少ない冬や春も定期的に観察を続けているので、1年間に一体何種類のきのこに出会えたかが分かります。

今回、4年間にわたる47ヶ月(1ヶ月は欠測)のデータを集めたので紹介していきたいと思います。

 

 

1年に出会えるきのこの種数

まずはタイトルの答えから発表したいと思います。

2016年には246種2017年には273種2018年には237種2019年には273種ものきのこに出会うことができました。

年によってきのこの発生量は大きく異なりますが(いわゆる当たり年/外れ年)、それでも安定して毎年200種以上が記録されました。

 

ちなみに、4年間の記録を全て合わせた時の種数は「484種」だったので、仮にこれが新治市民の森に存在している全種だとしても、1年間の調査で見られる種数は全体の半分程度ということになります。

つまり、月1回の調査を1年間継続しても、その場所のきのこ全てを記録するには不十分で、複数年同じ場所に通い続けることが重要だということが分かります。

 

月ごとの比較

月ごとに種数をまとめたのが下図になります(2018年8月は欠測)。

1年間同じ場所に通い続けると何種類のきのこに出会えるか?【神奈川県横浜市の一例】

一番きのこの種類が多かった月は、やはりきのこシーズン真っ盛りの「10月」でした(平均72.75種)。

この時期なら1日で70種以上もきのこが見られるということですね。

 

次に多かったのは「7月」でした(平均70.5種)。

なぜ7月にきのこが多いかというと、テングタケ、イグチ、ベニタケなど大型のきのこの多くは「二峰性」の発生パターンを示すからです。

 

つまり、初夏の頃に一度ピークがあって、真夏には発生が減り、秋にもう一度ピークがあるということです。

 
一方、最も少なかった月は、意外にも冬ではなく、「3月」(平均27.5種)で、「4月」(平均31.25種)がワースト2位でした。

この時期はチャワンタケやアミガサタケの仲間などに最盛期を迎えるものがありますが、多くのきのこはまだ出てきていないため、全盛期の半分以下の種数になっています。

 

グループの内訳

4年間で記録された484種をグループごとにまとめたのが下の図です。

担子菌と子嚢菌では前者がずっと多く、科レベルでは一年中見られる硬いきのこ(タマチョレイタケ科)の種数が最も多い一方、全体的にはハラタケ科、テングタケ科、ベニタケ科、イグチ科といった軟らかいきのこが多くを占めることが分かります。

1年間同じ場所に通い続けると何種類のきのこに出会えるか?【神奈川県横浜市の一例】

新治市民の森で見つかったきのこの中で、特筆すべき種をいくつか挙げると、まずは早春に湿地帯のハンノキの花序に発生する「キボリア・アメンタケア (Ciboria amentacea)」という小さなチャワンタケは、この時期の風物詩になっています。

また、ダクティロスポリナ・キューネリ (Dactylosporina kuehneri)」というツエタケの仲間は、毛がびっしりと生えた特徴的な見た目をしていますが、まだ和名がなく、新治市民の森での発見が国内初とみられています。

ダクティロスポリナ・キューネリ (Dactylosporina kuehneri)【写真提供:新治キノコグループ にゃごにゃ様】

ダクティロスポリナ・キューネリ (Dactylosporina kuehneri)【写真提供:新治キノコグループ にゃごにゃ様】

 

その他、「ブンゴツボマツタケ」「オオオニテングタケ」「コガネショウロタケ」「カメムシハリセンボン」などの珍しいきのこも記録されています。

この4年間には見つかりませんでしたが、かつてはノウサギの糞に珍菌「ハチスタケ」が発生したこともあります。

コガネショウロタケ【写真提供:新治キノコグループ にゃごにゃ様】

コガネショウロタケ【写真提供:新治キノコグループ にゃごにゃ様】

 

たくさんのきのこに出会うには?

ここまで見てきた通り、1年間同じ場所に通い続けると、月1回の観察にもかかわらず、少なくとも200種類以上のきのこに出会うことができることが分かりました。

 

しかし、初心者が1人で探しても、なかなかそれを達成することは難しいかもしれません。

大切なのは3つの「目」、つまり「目が多い(人数が多い)こと」、「目が肥えている(経験が豊富である)こと」、そして「目のつけどころが多様なこと」ではないかと思います。

 

私たちはいつも10~15人前後できのこを探しており、中には地面の下にあるきのこ(地下生菌)が得意なメンバーもいれば、冬虫夏草に興味があるメンバーもいます。

カメムシハリセンボン【写真提供:新治キノコグループ にゃごにゃ様】

カメムシハリセンボン【写真提供:新治キノコグループ にゃごにゃ様】

 

私はUSB顕微鏡を片手に、カビや小さなきのこばかりを探しています。

中には普通の探し方ではとても見つからないようなきのこもあり、例えば12月に出会った「ゼラチニプルビネラ・アストラエイコラ (Gelatinipulvinella astraeicola)」というきのこは、「古くなって真っ黒になったツチグリ」にしばしば生えるきのこですが、サイズが極小で色も目立たず、そもそもツチグリに別のきのこが生えるということを知らなければ、気がつくことはまずないきのこです。

他には、「ペロノイティパ (Peroneutypa) 属の一種」なども、ほとんど「きのこ」というより「カビ」のサイズで、初めて見る人はきのこだと思わないかもしれません。

 

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もちろん、きのこの分類は全体的に難しいので、誰が見てもきのこと分かる大型のきのこでも、なかなか種まで同定することは難しく、とにかく経験と勉強あるのみです。

 

新治キノコグループの活動にご興味のある方は、ぜひ毎月の最初の日曜日に新治市民の森を訪ねてみてください。

秋には近くの四季の森公園で写真展と観察会も開催しています。

新治キノコグループには特に代表はいないのですが、とりあえず中島までご連絡ください。

新治キノコグループ 中島さん メールアドレス